gakugei_today

建築・まちづくり・コミュニティデザインの学芸出版社です。最新情報をお届けします。

都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ(評者:大村謙二郎、饗庭 伸)

都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ

蓑原 敬 編著、西村幸夫・佐藤 滋 他著

A5判・272頁・定価2940円(本体2800円)
ISBN978-4-7615-2501-9
2011-02-01 初版発行

■■内容紹介■■

痛切に求められている「地域の安定と活性化」を実現するには、成長時代の都市計画を脱皮し、地域による地域のためのまちづくりを切り開かねばならない。何から始めるべきか?この分野の第一級の論者に、福祉・交通分野の専門家も加え、自治体、市民、専門家の連携で、総合的な都市政策と直結する都市・地域計画を提言する。

http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-2501-9.htm

■読者レビュー

現代日本の都市計画の第一線を担う著者達の熱き想い

21世紀に入って10年が経った。この10年間で日本の都市・地域を取り巻く状況は大きく変わってきた。東京などのごく少数の大都市では国際競争力強化のかけ声の下、華やかな都市再生プロジェクトが展開され、都心のジェントリフィケーションが進んでいる。逆に、地方の中心市街地は壊滅的な打撃を受けて地域経済の衰退の象徴となっている。郊外では自動車利便性の高い場所に、あたり構わず大型商業施設、ロードサイドショップが林立し、農地の改廃、利用転換が進み、耕作放棄地が増大している。問題ばかりではない。この間の自治体主導の先進的な都市計画、市民セクターのまちづくり提案など、新たな都市計画の芽が着実に生まれつつある。これらの都市計画を巡る変化は日本国内に閉じられたものではなく、グローバルな社会経済環境の変化に連動しており、しかもその変化の速さと規模は増大しているように見える。しかし、こういった個別の都市計画、地域づくりの変化の動きを全体的にとらえ直し、この先、日本の都市計画はどのような方向に進んでいくのか、確たる展望が持てない状況だ。

本書は、表題が示すように、大きな曲がり角にある日本の都市・地域計画を根底から見直し、新たな都市計画を展望し、その方向性を提案しようというもので、時代の要請にこたえるタイムリーな刊行である。

前著(蓑原敬編著『都市計画の挑戦 新しい公共性を求めて』学芸出版社、2000年)が発刊されたのが世紀の変わり目の2000年。前著とほぼ同じ著者達に新たに交通、福祉の専門家を加えて、より広く、深く、現代日本の都市計画を多面的に論じている。
 本書は序章と2編10章からなっている。10人もの多くの論者が多面的に現代日本の都市計画を論じているにもかかわらず、一本のまとまった筋を読み取れるのは編著者の蓑原の強いエディターシップの下に著者達が綿密に協議して、執筆したものと思われる。

簡単に内容を要約するのは無理だが、評者が読み取って理解した本書の構成を紹介しよう。

序章で編著者の蓑原は本書全体として、著者達が共有するべき現状認識と共通する意志として4つの原則をあげている。第1が地域主権の原則、第2が広域的な居住展開の原則、第3が近隣環境管理の原則、第4が建築物を社会的な資産と見なす原則、の4つである。いずれも共感、納得できる重要な指摘である。

以下の各編、各章ではこの4つの原則を踏まえた上で各著者がそれぞれの主題を論じている。第1編が理論的な側面に力点を置いた論説、第2編が個別テーマや実践を踏まえた政策指向の論説となっている。

第1編は「都市計画を根底から見なおす」のテーマの下で議論が展開されている。第1章では現行都市計画制度に対する素朴であるが根底的な疑問を投げかけ、問題点をあぶり出し、解明することによって新たな計画制度の望ましいあり方を展望している(西村)。第2章ではこれからの都市計画は地域協働の時代に入るとの見立ての上でまちづくり市民事業からの都市計画の再構築を示している(佐藤)。第3章では日本の都市計画制度を国際的な視野の下で位置づけ、自治体主導のまちづくり条例が先導することにより、持続可能な都市圏構造、日常生活空間が実現可能であるとの道筋を創発的に提言している(大方)。第4章では前著における「小さな公共性」を踏まえた上、分権下における広域計画の必要性を甲府盆地の事例を挙げながら、各主体、運営協議組織のあり方について綿密な検討を行っている(中井)。

第2編は「総合的な都市政策と直結する都市計画」と題して次の5つの議論が展開されている。第5章ではこの10年近くの国内外の動向を押さえた持続可能な都市実現のための、公共交通を中心とした都市交通戦略の課題を論じている(中村)。第6章では日本が今後目指すべき定常社会を作り上げていく上で重要となるコミュニティとしての都市のあり方を福祉政策と都市計画が連動して展開する必要性、課題を論じている(広井)。第7章では戦後日本の住宅政策を振り返る中で、今後の地域主権の原則の下での基礎自治体における住宅政策の方向性について論じている(小川)。第8章では埼玉県の見沼田圃保全とホームレス支援の取り組みを素材にして、地域を豊かにするガバナンスと協働のあり方について実践的考察を行っている(若林)。第9章は先進的な都市計画、都市デザインの取り組みを進めてきた横浜の事例を綿密に分析する中で、21世紀にめざすべきコンパクトシティが備える条件について論じている(木下)。

以上のような簡単な紹介ではそれぞれの論説の深い内容や魅力ある考え、発想を伝えることはできない。ぜひ手にとって読まれることを薦めたい。これは脱線した、評者の個人的な感想であるが、60年代の都市の成長と変貌についての専門知識はなかったが、同時代を身体感覚として記憶している評者にとって、蓑原の1960年代都市計画の補論は大変興味深く、先輩プランナーの認識、苦闘を理解できたような気がする。

都市計画の森を長年にわたって迷走してきて、いささかくたびれている評者のような者にも、現在、第一線で都市計画の実務、調査研究に取り組んでいる人達にも、さらにはこれから都市計画の大海に乗り出そうという人達にも、あるいは都市計画に関心を強く持つ市民にとっても、それぞれ読者にとって、これからの都市計画を考える上での有益な指針と知的刺激を与えてくれる書といえよう。現代日本の都市計画の第一線を担う著者達の熱き想いが伝わる、現代日本の都市計画に対する根底的批判とそれを乗り越えていく都市計画の道筋、希望をあたえる書である。(筑波大学/大村謙二郎)

タイトルからして「ずしん」とくる本である。ここ数年、都市計画制度の抜本的改正の議論は多くあり、少なくない提案が出されている。これらの議論は相互対照しながら積み重ねられているわけであるが、本書はその最新版の一撃である。しかし、総括のために書かれたわけではない。総括するのは国土交通省地方自治体の役割とばかり、都市計画制度の体系に対して、異なる角度からもう一度光をあて、より深い問題構造を明らかにし、より抜本的な改革を迫っている。

ではどういう角度から光をあてているのか。それは冒頭で蓑原が示す「地域主権」「広域化」「近隣環境管理」「建築ストック重視」の4点である。前半はこの4点を共有した上で、西村が近代日本都市計画への根源的な疑問をまとめて都市計画のあり方を整理し、佐藤はまちづくり市民事業とその連携・複合体が都市を変えていく、都市計画はその調整や編集を行うものであると説く。大方は都市計画制度の国際標準に照らし合わせながら自治体の立法の可能性を示し、中井は広域計画についてクリアな制度設計を示す。後半は各論的な論考が並び、中村は交通、広井は福祉、小川は住宅、若林はガバナンス、木下は都市デザインの視点から歴史的なパースペクティブと最先端の事例や計画理論を示す。それぞれの論考は、中央の都市計画法制度改革だけでなく、2000年の地方分権改革以降、各地の地方自治体で進められている、都市計画の制度構築を中間的に見直す視点にもなりうるだろう。

最後に本書に不足している「今後の課題整理」を整理しておく。

「建築ストック重視」については、議論の余地がまだ多い。ストックを重視することでどのような都市空間像が描けるか、経済成長期に世界中から蓄積された富で作られた都市空間をどう維持し、今後の新築投資をどこに振り分けていくか、という視点も必要である。また、著者らは「よくガバナンスされた状態」を目標とし、かつ前提としているが、その裏返しの「よくガバナンスされていない状態」をどうするかという議論も必要である。都市はまだ圧倒的に「ガバナンスされていない」からである。最後に、今や人々も都市もグローバルにつながり、その決断は遠い国の人々の生活に影響を及ぼす。世界に富や幸福が偏在しており、持たざる者が圧倒的に増え続けている現在、日本の内側だけを意識した都市計画はあり得ない。私たちの都市計画が、グローバルにどういう負担をかけるのかを感覚的に理解しながら次世代の都市を計画する技術や手法も議論されるべきではないだろうか。(首都大学東京 都市環境学部建築都市コース准教授/饗庭 伸)

■担当編集者より

都市計画は時代についてゆけずに大きな問題を抱えていることが明らかなのに、抜本改正の道は開けていない。郊外に住宅が無秩序に拡散しても、今日、明日、困ったことにならないから、なかなか大きな声にならないが、結局のところ、その集積が大きなマイナスをもたらすことになる。

やはり将来のことも、政治も行政も、そして市民も、もっと真剣に考えるべきではないか。

本書は、そのための大きな枠組みを日本の都市計画の第一級の論者が果敢に挑戦したものだ。

甚大な被害をもたらす災害が起こってしまった今、復旧・復興が急がれるが、従来の枠組み、高度成長時代の思考でガンガン進めれば良いとも思えない。高齢化や人口減少、環境制約の時代にふさわしい復旧・復興を進めることが重要だろう。

これからの都市づくり、地域づくりの大きな方向性を確かめるうえでも、本書は貴重だと思う。(Ma)

■書評してくださる方募集!

現在、下記の発行予定書籍を書評してくださる方を募集しています。

『アグリ・コミュニティビジネス』 大和田順子 著
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1280-4.htm

農山村は資源の宝庫である。そこで自然と文化を活かした暮らしやビジネスを起こすことで、長年断絶されてきた都市と農村の交流を促し、新たなヒトとカネの流れを生みだす。本書では地域の課題解決と豊かな社会づくりに取り組む企業や自治体、新規就農者の取り組みを紹介。人も地域も輝く仕事がしあわせな地域社会をつくる。
800字程度の書評をお願いします。

採用させていただいた方には該当書籍と、ご希望の学芸出版社の本1冊進呈。

★問い合わせは下記まで(担当:中木)
info@gakugei-pub.jp

広告を非表示にする