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gakugei_today

建築・まちづくり・コミュニティデザインの学芸出版社です。最新情報をお届けします。

ドイツの地方都市はなぜ元気なのか

イベントレポート

ドイツの地方都市はなぜ元気なのか
地域力を生みだすしくみ

記録ページ
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1008takamatsu/report.htm

『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』紹介
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1243-9.htm

高松平蔵 氏

独立意識の高いドイツの地方都市には、アイデンティティを高め、地域を活性化させる経済戦略、文化政策等が充実しています。地元の市民や企業、行政もまちの魅力を高め活用することにとても貪欲です。

企業には地元のスポーツや文化活動を支援することが根づき、行政マンの自治意識は高く、国や州とも渡りあえる専門家集団です。市民は日本のNPOにあたる様々なフェライン(非営利法人)に所属し、レクリエーションから福祉、環境まで様々な活動を共に行い、豊かな人間関係を築いています。こうした様々な主体の動きが地域を動かす力=地域力となり、普通のまちを輝かせるのです。

ドイツ南部バイエルン州にある、人口10万人のエアランゲン市に暮らすジャーナリスト・高松平藏氏に、その地域力がいかに生みだされるのか、ご講演いただきました。

当日は、行政、NPO建築士、プランナーと幅広い分野の57名もの方々にご参加いただき、ドイツのまちづくり、地方都市の活性化といったテーマの関心の高さがうかがえる講演会でした。

■エアランゲン市について

人口10万人。小ぶりの自治体が多いドイツでは10万人の都市というと大規模都市という位置づけになる。

早くから自転車道が整備され、過去にドイツの環境首都にも輝く。

多くのドイツの町がそうだが、エアランゲンもフェスティバルなど文化活動がさかんである。

90年代半ば以降から医療都市という政策を展開。近隣都市との連携で「メディカルバレー」というクラスターを生成。2010年1月には連邦研究省のクラスターコンテストでベスト5のひとつに選ばれる。

このような活力のある町がなぜ実現するのか。その中核にある「地域力」を解明していく。

■ドイツの地域力を支えているもの=循環系

・ヒト:政治家、行政マン、積極的な市民
・モノ:景観などの町のハード
・カネ:税収、スポンサリング・寄付
・情報・観念:歴史、誇り、立地条件

地域内に余暇関連などの生活部門、エネルギー・交通といった経済部門、弁護士などの人材関係の各種インフラ(生活、経済、人)を整えることで、企業を誘致できる。さらに生活の質の高さは優れた人材も街に引き寄せる。進出した企業が営業税を町に納税し、芸術支援など地域社会への貢献を行うと、町のインフラ投資はより充実し、文化活動などが活発化することによって、さらに質の高い人材を呼び込むことになる。こうした街の中のヒト・モノ・カネの「循環系」が生まれることで、持続的な地域力が育まれる。

■ドイツの地域力の特徴

①町には「戦略」と「戦術」がある

・戦略:市には「大臣」に相当する政治的ポストがある。政治とは自治体の戦略
・戦術:行政マンは専門家集団で、かつ人事異動がない。行政とは自治体の戦術

②市民活動をする環境が充実している

・教会:歴史的にボランティア活動の中心を担ってきた。教区ベースでの交流もさかん。
NPO:ドイツでは「フェライン」という。1848年に法律が制定。エアランゲンだけで550、ドイツ全土では約60万もの団体がある。スポーツのフェラインが一番多く、全体の約4割を占める。

③ドイツでは文化は地方自治体の義務である

・フェスティバル:詩人の祭典、コミックサロンなどが毎年、隔年で開催され、市外、国外からも多数の来場者を集め、ホテルや飲食店も潤う。
・劇場:市営の劇場やNPOが経営する劇場が複数ある。地方色の強い演目も上演する。
・カルチャー・ダイアローグ:文化に関して行われる対話集会。「町にどのくらい文化は必要か」というテーマを掲げたときは、市会議員、学者、商工会議所、教会の関係者たちも参加。市民の前で町のインフラとしての文化を議論した。

■街のアイデンティティ

地域力の源になる強いアイデンティティは、郷土愛、地域の可視化、文書主義によって維持・更新される。

①郷土愛
学校の授業で方言を教えたり、書店には地元本のコーナーがあり、地元のサッカーチームも町を挙げて応援するなど、愛国心ならぬ愛郷心が人々に根づいている。

②地域の可視化
千年といった町の記念年を盛大に祝い、町の歴史を演劇やパレードで展開する。地域内の企業を市民に開放し科学資源を顕在化させるイベントなども好評だ。地元のビール祭りもミュンヘンオクトーバーフェストよりもその歴史は古く、250周年記念のときは、書籍が出版され、展覧会やカバレット(社会・政治を風刺したりするお笑い芸)作品がつくられるなど、「ビール」から見た町の文化を可視化する。

③文書主義
ドイツの都市の原風景は中世に発達した城塞都市。壁でぐるりと囲まれた都市はいわば人工空間で、人々はこの限られた空間で生活しなければならない。この人工空間を管理するためにどうしても町全体を常に把握し、分類・位置づけするようなことが必要だったのではないか。そういった態度がよく表れているのが文書主義。中世以来、各都市は町についての膨大な文書を残している。そのため、ドイツのどの町にも歴史アーカイブが必ずある。町の歴史アーカイブでは、町の歴史をまとめた「町の事典」を編集出版したりする。地元新聞もアーカイブの文書として蓄積される。

こうした様々な装置によって、まるでエアランゲンという人格ならぬ町格というものが自然と出来上がっているように思える。日本では、まちおこしの一貫として、その町の歴史を体現させた親しみやすいキャラクターをつくってPRしているようだが、そうしたものは一過性の現象に終わってしまう可能性がある。人々の中に町への思いや関わりが積み上げられてこそ、町のアイデンティティが生まれ、真のまちおこしにつながるのではないだろうか。

ドイツから日本が学べることとして、まずは、職住近接を実現することから始めてはどうか。仕事が終わってから、家族との時間を持ったり、地域の活動に参加できる、そんな時間の使い方ができるライフスタイルが、地域力を育む第一歩となるのではないか。

■講演出席者の感想(一部抜粋)

・具体的な事例を基にクリアな分析がなされており大変勉強になりました。特に「文化戦略が地域力の中核」という分析には瞠目させられました(Tさん)

・日本では、小京都と呼ばれるような地方都市などは観光中心ですが、ドイツは行政、文化、歴史など、トータルなまちづくりがなされているように思いました(Hさん)

・エアランゲンの地域力が市民・行政・NPO団体が連携して築かれている様子がよくわかりました。日本の都市も城壁都市で形成され今日に至るが、郷土祭等、各郷土で他とは異なる都市文化を創りあげてきたが、郷土人が少なくなり、異郷土の人々の集合体で都市がつくられるようになり、特徴を失いつつある。その歯止めになる郷土教育の必要性を感じました(Oさん)

・ドイツの地域力の特徴ということで、教育と職業が密接しているとありましたが、日本でも、あらゆる分野で活躍できるエキスパートと場があればなあと考えました(Oさん)

・他の都市との比較(相対化)や、ドイツ人が持つアイデンティティが形成された背景等についての話がなかったのが残念です。ただ、エアランゲンという「ローカル」に特化した、まさに高松氏のエアランゲンに対するアイデンティティを感じる素晴らしい講演でした(Hさん)

・エアランゲンはかなり有名な町であるが、市民レベルの目線で話を聞けたことは勉強になった。ただ、パーツの説明はよくわかったのですが、それらが生みだす成果についてもう少し詳しく説明が聞きたかった(Hさん)

・生活の実感から見た都市のあり様が聴けて新鮮でした(Iさん)

・仕事柄、地域まちづくりを担当しており、日本と比較した地域力に関する興味深い話であった。お国柄の違いはあるが、先進的な事例は参考にしていきたい(Kさん)

・日本と違う「地域力を生みだすしくみ」は根本的なところがまったく違うと感じられました。それは次の3つです。①地域に大臣がいる(日本には行政マンしかいない)、②文化は地方の義務である(人が集まるしくみがある)、③町のアイデンティティ意識が、政治=経済=文化=教育=職業の強い日常のつながりで生きている(日本は特定の人の意識で、多くの人は日常では無関心)。なるほど、だからドイツの地方都市は元気なわけですね(Oさん)

・日本の地方都市を元気づけるヒントをいただけたように思います。戦略を考えていない市長、優れた戦術を持つ専門家でない行政マンの目をこの本で見開かせたいです(Yさん)

・市民の生活や気質等、現場の雰囲気やイメージはよく伝わった。一方、政策や計画的な面がもう少し知りたかった(Yさん)

・ドイツには「地方」という概念がないという話はなるほどと思いました。一極集中する必要がないくらい、それぞれの都市で質の高い生活ができるということではないでしょうか(Yさん)

・都市づくり、まちづくりの歴史の違いを感じた。自分たちのまちを大切にし、自分たちの手でまちづくりを継続していることに誇りを持っているのだろうと感じる(Kさん)

・市民、実力者みなが一致したような行動をとれる地域力に驚きました。京都とも一致する点も多かったように思いますが、どうしたら京都がもっと元気が出るのか、是非伺ってみたいものです(Iさん)

・郷土愛を持っていない私にとって新しい発見のあるお話でした。「職住近接」というキーワードで、今日本が抱えている多くの問題を解決できるのではないかと思いました。日本も新たな「地方」の考え方をしないといけないですよね(Yさん)

・エアランゲン市の地域力は、昔から蓄積されてきた文化によって支えられているということがよくわかりました。奈良市世界遺産という長い歴史文化のシンボルを抱えているにもかかわらず、(一部の地域を除いて)活力が欠けているように思えるのは、行政も市民も文化の表面的な部分だけ取り上げていて、奈良の真の文化に対する理解を共有できていないからでしょうか(Kさん)

・ドイツの話は面白かったが、さて日本で何から始めるかとなると、難しい感じがした(Jさん)

・日本の地方都市がいかに変わることができるのかという視点でセミナーを受講しました。国レベルで職住近接、仕事時間も短いなど、地域や文化に接する社会環境があること、そして文書主義や郷土愛などの蓄積があるからこその必然性を感じました。こうした意味で、日本をいかに地域主権化することができるのか、その切り口を知りたいと考えています(Tさん)

編集者のブログ
http://d.hatena.ne.jp/MaedaYu/20100819

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