読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

gakugei_today

建築・まちづくり・コミュニティデザインの学芸出版社です。最新情報をお届けします。

「都市交通戦略のあり方」を語る(中村文彦氏)

「都市交通戦略のあり方」を語る

『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿いただいた中村文彦さんに、主題とされたモビリティデザインについてお聞きしました。交通システムは作っておしまいではなく、使われることが大切というお話は印象的でした。
聞き手:前田裕資(編集部)

http://www.gakugei-pub.jp/chosya/039naka/index.htm

中村文彦氏
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授。62年新潟市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程修了。工学博士。東京大学助手、アジア工科大学助教授、横浜国立大学助教授を経て、04年より教授、11年より現職。都市交通計画、交通施設計画、開発途上国の都市計画などを専門とする。

■建築系の読み手の方にも分かりやすく書きました

前田:

 このたび、『都市計画 根底からの見直し、新たな挑戦へ』という本の中で、交通政策について中村先生にお書き頂きました。その狙いと、特にどういう人にどういう気持ちで読んで欲しいと考えていらっしゃるのか、お話し頂きたいと思います。

中村:

 今回、蓑原先生からお誘い頂いて、交通の章を書かせて頂きました。私は東大の都市工学科を出て、ずっと交通の勉強をして、今は横浜国大の土木系にいますが、交通は土木、あとは建築の担当だとする縦割りの風潮にずっと違和感を感じています。

 別に技術の違いもあるから、それでもいいと割り切ることもできるのですが、土木と建築の間にある「壁」が、いろんな物事を歪めているという感覚がいつもあります。交通はもう別の世界の話だから、そっちで勝手にやってねという形で仕事が割り振られるのもイヤだし、逆に僕らの方も建物の並びなどまちづくりに関することに物が言えなくなっているのも変だと思うのです。本来は相互につながっているものでしょう。

 今回の本は、おそらく建築系の読み手の人の方が多いだろうと思っています。ですから、建築系の読者を念頭に原稿を書きました。普通の交通の教科書なら、いきなり需要の予測が出てきたりモデル式が出てきたり、慣れない専門用語が出てくるのですが、今回の原稿ではそういうことを排除して、交通の物の見方、特に都市での交通の見方を中心に置いています。交通は都市での活動と大きく関係しているのだということをまず書きたかったのです。

■空間のディテールの設計も含め、モビリティデザインも重要なのです

 それから、交通の専門家は都市の再開発や土地利用計画、地区計画など計画畑のことだけやっていればいいのではなくて、もう一段アーバンデザインに近い話で、ディティールの設計の話も交通の話と極めて近いだろうと思っています。一般には交通のイメージは、都市圏の中でのマクロ的な移動、例えば東京都と横浜の間をどれくらいの人が動くかというイメージで捉えられています。それを支えているのは、横浜の駅であり鉄道システムであり駅の周りのデザインで、そういう一つ一つの要素が繋がって人々の活動を作り上げ、それが動きとなり、交通となっているのです。そのつながり方を見ようということで、「モビリティデザイン」という言葉をわざと入れてみました。

 「モビリティデザイン」は、アーバンデザインをする人が見た目の様子だけでなく、人々の生活を設計していることに加え、生活の先に人々の動きがあることを踏まえてもらおうと入れた言葉です。その動きまでをデザインしてくださることが大事だし、道路と民地の関係を考えたら、その両方をセットでデザインしないといけない。どんなに建物が美しくてもその先の道路がしょぼいとまずいし、逆に道路だけ立派でも民地側が美しくないとバランスが悪い。それを上手につないでデザインするには、人々の動き方を見ることから始まるだろうと考えています。そのあたりを書き込んだつもりです。少し書込が足らない部分もあるでしょうが、要素は全部入れたし、少し例題になるようなキーワードも幾つか入れました。

 昔の(都市の)イメージでは、交通は車と歩行者空間だけでした。しかし、今の都市はそこを動くバスとか、今流行りのLRTなどの乗り物もあります。それに対して思うことは、それぞれの乗り物に関して独立した計画は無意味だということです。例えば、路面電車をいくら格好良く作っても、電停から建物までの歩行者動線が悪ければ、使ってもらえないのです。そこをセットで考える発想がこれからのまちづくりには必要になってくるのです。

 それと僕が今、気になっているのは、手段と目的の混乱です。これは、路面電車や地域のコミュニティバスを作ろうとしている人たちが陥りやすいことですが、つまりそうした交通システムが入ればいいと言ってしまう人が多い。そうじゃなくて、そうした交通システムを人びとが使ってくれることで、町が生き生きするのが目的なんです。こういう発想になかなか至っていないと思います。その部分をきちんと考えて欲しいという思いも込めて書きました。

■行政、事業者、市民がなにをすべきか

前田:

 そういう都市交通戦略、あるいは都市交通を考える一番の主体は誰になると思われますか。

中村:

 基本は行政と市民、そこに関わる運輸事業者と分けるのですが、やっていて思うのは基本的に行政が公共的空間の管理をするから行政が主役になるものの、行政の中にもいろいろあって、なかなか物事がスムーズにいかないことです。例えば、道路管理者と交通管理者を分けないといけない。道路を管理する人と、交通の法規、信号機や規制をする人との間がしっかりしてない場合が多々あります。だから、主役という意味では行政が総力戦でやってくれるのが大前提。

 その上で、市民が出てくるのですが、広域圏の交通になると市民の意見をそのまま反映するのは難しいと思っています。というのは、市民は自分の生活空間での意見は出てくるけど、地域全体でどうあるべきかに関しては客観的な意見を出せというのも酷な話ですし、それを市民に期待するのは無理があると思っています。とは言え、自分がこうしたいということを市民に考えてもらうことは必要だし、それはある意味学習、訓練の場が必要なので、それをクリアした上で市民とのやり取りもあるだろうと考えます。

 もうひとつ難しいアクターが運輸事業者、つまりバス会社、鉄道会社です。これまで公共と言いながら民営であった。この「公」と「民」の間の行き違いはなかなか難しいんです。ある時は「民間だから」と言い、ある時には「公共性があるから」と言う。それぞれの人が都合良く使っていた場面もあったと思います。そこをもう少し堂々と整理して行くべきだと思います。ヨーロッパではその辺を割り切っていて、「公がやることはここ、民がやることはここ」ときちんと分けられています。日本もそういう整理をしていく時代でしょう。

 隣の韓国のエピソードなんかは面白くて、ある時ソウル市の市役所がバスの役割をどどんと決めたんですよね。路線、車輌、サービスの中身を全部公と民に分けてしまったのです。交通サービスをいかに安全にやるか、それをチェックするのは公の仕事なんです。そういう整理がもう世界では始まっているのですから、日本でもそっちの方向に動くことを期待しています。

前田:

 ありがとうございます。

広告を非表示にする