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佐藤嘉一郎『楽しき土壁』自著を語る

http://gmark.jp/book/2227sato_tanoshiki/interview.htm
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1304-7.htm

まだまだ見ておきたかった“不思議な壁”

◎本をお出しになられて、今、どんな思いでいらっしゃいますか。

本の中身については、年は90歳になっているけれども、自分としては、まだまだ幼いね。本当に現場の話にすぎない。もう少し深く話せたかもしれん。

本書では、実際に見て回る建物を京都市内の5箇所に決めてしまったわけですが、もう少し見ておいたほうがよかったなと思うところもあります。

曼殊院左京区一乗寺)にも行きたかったね。曼殊院はちょっと赤みがかった壁です。書院のほうは、江戸時代初めの壁が残っている。お茶室のほうも、桃山土と呼ばれる土の錆が出てきているようです。ただ、あそこはとても暗くて見えにくいんですね。窓を開けたりして明るくして見てみたいね。あそこも不思議な壁やねん。

今回は行っていないところだと、待庵(京都府大山崎町)もいい壁です。塗り回しが絶妙やね。

あるいは、修学院離宮や、大宮御所にも古い茶室がある。そこの壁がどうなっているのかも見ておきたい。ここらはほとんど使っていないさかいに、わりに傷んでいないと思うので、比較的残っているやろうと思う。壁というものは、天皇が代わるときやお茶会をするときなどに、塗り替えていることが多いので、当初どんな壁だったのか、どんな塗り替えがされたのかは興味があります。

ただ、そこまで追求するなら、文献を調べないといけない。御所だと作事日記などが残っているはずですから、「いつごろ、どれくらいの職人が入って塗り替えた」などはわかるかなとは思います。そういう調べものもしてみたいなと思います。

そのような建物の壁を、きちんと比較して、深く追求するようなやり方もあったかもしれん。比較するともっと面白いかもしれんが、あまりに専門的な内容になりすぎるかもな。土壁入門者に読んでもらうには今のかたちでよかったと思います。

◎これまでのお仕事のなかで、思い出深いものをひとつ教えてください

すでに壊してしまったものですが、面白いなぁと思うのはありました。昭和15年ごろの駆け出しのころやったなぁ、仕事欲に憑かれて走っている最中のことやった。

ごく普通の町家で、株屋さん(証券会社)の社長さんの家でした。ただ、それは土壁塗りではなく、タイル張りの仕事やった。泰山焼(たいざんやき)という手焼きの民芸調のタイルです。

昭和10年ごろから、河井(寛次郎)さんなどの京都の民芸グループがさかんに使い出したやつやな。それは、大量生産ではなく、手づくりものです。たしか、大阪の「綿業会館」(昭和6年)に張ってあるやつが同じもので、それの細長いやつがあるねん。それを、洗面所や流しに張った仕事やったね。

若かったんやけど、「任せとくわ」と言われたさかい、凝って、菱型にカットして張っていったんや。その時分にはカッターがなくて、手でみな切っていたんです。「こつこつこつ」とタガネで切るんですが、ものすごく難しかった。裏から切ったり、表から切ったり、金きりのこぎりでやっても駄目やし……、苦労したな。でもなんとかやり遂げた。

ガラス棒をうまいこと使って、水がうまく流れてタイルが汚れない工夫をしたりして、われながらええ思案したなと思える仕事でした。

このお宅には、その後おつきあいも続いて、終戦後までもずっと「お出入り」で行かせてもらっていました。ちょうど、荒木さん(『町家棟梁:大工の決まりごとを伝えたいんや』)もお書きのように、そうじをやらせてもらったりね。いろんなことをやらせてもらいました。

“「手の跡」を見て、学んでほしい”

◎最近の若い人の仕事についてどう思いますか。

壁関係の雑誌もちょくちょく拝見したりしています。若い人が、大きな壁に壁画みたいにぐわーっとやっているのも見ています。左官の壁が、建築のいわば「看板」の役割を果たしているようなものもありますね。ようやっとると素直に思います。

「ああ、これはこうやったらできる」などと技術はわかりますが、私らがやってきた仕事では、そういうお施主さんはいなかった。そういうことにお金を出してくれるひとが少なかったんです。

私らは、お施主さん、設計者さんの注文に応じられる仕事を、きちんとできるようになるべきと思いますが、逆に、職人の腕を伸ばすような仕事も与えていただければ、とも思います。

保守的、伝統的な仕事を「ちょっとでもきれいに」「すこしでも安く」と言うだけではなく、思い切って新しい試みをさせてもらえるような、職人を思い切り伸ばすような仕事が増えるといいと思っています。そういう仕事があると、若い人も伸びていくからね。

◎これから学んでいくにあたって、何をどう勉強したらよいのでしょうか。

これ学べ、あれ学べということは言えませんが、過去の職人のええ仕事を見てほしい。ただ単に、削って、切って、くぎ打って、留めて、かたちだけつくって、壁塗った、と、そういう見方ではなく、「これをつくるにあたって、どういうふうにしたんやろう」「ひとつも隙間が見えへんのやけど、どうやってやっているのか」と。つまり、昔のひとが苦労して仕事をした「手の跡」を見て、学んでほしいんです。

壁でも、この本でもあるようにすぐ目のそばに行って見てほしい。それを感じてほしい。ちゃんと見たら、仕事でもそれに近いものが再生できるはず。見るのも漫然とみているのでは駄目です。そういう目を養うには……やっぱりたくさんみるということやな。たくさん見て、勉強して、記録を読んで、そして、自分で考えたうえで、実際に施工をして試してほしいと思います。

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