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建築・まちづくり・コミュニティデザインの学芸出版社です。最新情報をお届けします。

椎川忍さん「緑の分権改革」を語る

「緑の分権改革」を語る
椎川忍さんに、本書執筆への思い、その理念(ファウンテンモデル)、そして地方自治体への期待をお話いただきました。

http://www.gakugei-pub.jp/chosya/042siika/index.htm

○役所の報告書と違った、よく分かる本にしたかった

司会(前田):

 では早速、椎川さんに、本書の狙いやお気持ちを紹介していただきたいと思います。

椎川:
 いろいろ他にも書きたいことはありましたが、基本的には地域力創造とか地域おこしについての内容です。
 「緑の分権改革」というのは、原口総務大臣(当時)が言い出したことで、その時からこれは分かりにくいと言われてました。確かに題名としては分かりづらい所があると思います。しかし、中身をよく聞いていくと、昔から私どもも、いろんな学者の方も、あるいは地域の人たちも取り組んできた「あるものを生かす地域づくり」とか「地域力創造」といったことなんですね。ですから、副題には「あるものを生かす地域力創造」と付けました。
 「緑の分権改革」の広がりや考え方、あるいはこういう分野でもこういう考え方で取り組んだら緑の分権改革になるんだということを、みなさんに知っていただきたいと思っています。
 国の政策も、平成21年度に政権交代があって、補正予算が編成替えされた時に原口さんが総務大臣として、「緑の分権改革をやろう」ということで補正予算39億円が計上されたということがありました。そういうものが平成22年度の当初予算、その予算の成果が平成23年の春先に出てきて、段々と輪郭がはっきりしてきました。そして、「こういう風にやるんだ」「こういう分野のこういう取り組みも緑の分権改革なんだな」ということが徐々に世の中に伝わるようになってきました。「緑の分権改革」という本は、そうした時期にちょうど良いなと思って書き上げたと言うしだいです。
 俗に役所の報告書とは分厚くて読みにくいという部分がありますから、私としては分かりやすい解説を加えたりして、より分かりやすくに読んでもらおうと工夫したつもりです。
 それと緑の分権改革という政策が出てくる以前から、同じ考え方ですでに先行的な取り組みをしている地域がありました。
 例えば、岩手県葛巻町滋賀県東近江市、長野県の飯田市徳島県上勝町などもそうです。上勝町は葉っぱビジネスで有名ですが、実は「地域にあるものを全部資源として使っていこう」という姿勢でゼロエミッションや山の再生にも取り組んでおられます。そういう先駆的な事例を含めて紹介しています。

再生可能エネルギーが一つのポイント
 特に「再生可能エネルギー」が当時から大きく取り上げられていました。民主党マニフェストにも「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が盛り込まれていて、エネルギーの買取制度を導入するということもあったわけで、それを進めていく意味もあって原口総務大臣は予算を計上されて、総務省に本部や有識者会議を作って取り組みを進めてきたわけです。
 「再生可能エネルギー」の問題は、東日本大震災、福島の原発事故がありまして、みなさんが環境問題、エネルギー問題に目を向けるようになったと思います。これまでは効率優先だけで安い物を大量に作って、電気であれば配電する、物であれば全国に配送できるシステムが一番良いんだということで、経済成長や発展を求めてやってきました。しかし振り返って考えてみると、それだけで本当に良いんだろうかと思いながら近年生活してきたわけなんだけれど、それが何であったかははっきりとは分からなかった。しかし、今回の震災、原発事故によって「ああ、こういうことだったんだ」とはっきり認識されたのではないでしょうか。
 私達は「どこにでもある土地、水、太陽」から生み出せる再生可能エネルギーがせっかくあるのに、「原子力が安いし効率的だ」と大量に電気を作って文明生活を送ってきました。電気をふんだんに使って夜も昼と見間違えるばかりの生活が文明社会なんだと思って生活してきたけれど、どうもそれは違うんじゃないかと最近思い始めていたところじゃないかと思うんですね。そうした生活がおかしいということがはっきりして、もっと大事なことがあったんじゃないかと思い始めたのだと思うんです。
 自分たちの今が良ければいいのではなく、将来の日本列島に住む我われの子孫もちゃんと電気が使えるようにサステイナブルなシステムを作っていくことの方が大事なんじゃないか。あるいはせっかくあるものを有効に使って、それを生活の糧にして地域の活力の源にしていく、経済のもとにしていく、そうした考え方をもう一度取り戻してみよう。そういう考え方が理解されたんだと思うんです。
 それで法律も、震災後に国会で修正協議が整って、「再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度」ができ、いよいよ今年の7月から本格的に動いていく予定です。

○元気があちこちからわき上がってくるファウンテンモデルを目ざす

 そうした動きが他の分野にもいっぱいあると思うんです。昔、それぞれの地域で経済の循環の中で役割を果たして富を生み出して、地域の活力を生み出してきたものが、市場原理を尊重するあまり、また自由主義を尊重するあまり、疲弊してきた。中心市街地の商店街もそうでしょうし、多くの酒蔵が地域でつぶれていったのも同じことでしょう。あるいは地場産業の衰退もそうです。せっかくある町並みや古民家が朽ち果てていく現状もあります。いろんな所に目を向けていくと、せっかくある良い物が力を発揮できなくなっている、経済の循環から外れてしまっていること分かります。
 こうした経済の循環の中から外れてきているものをみんなで取り戻したい。取り戻す時に、補助金ではなくて経済・社会のシステムを変えることによって取り組もうということです。国民合意を得て、法律を変えて経済・社会のシステムをちょっと変革することによって、それらが富や活力を生み出すもとになれば、これは一極集中とか、それによるトリクルダウン〜どこか一部だけが非常に頑張って、そこに集中投資をして、それ以外はそのおこぼれで生きていく〜のではなくて、地域のそれぞれがそれぞれの特色を生かしながら、あちこちから富がわき上がるように、元気がわき上がってくるようなファウンテンモデル型の日本をつくろうという政策理念なんです。
 ですから、非常に幅が広いし、横串の政策理念なんです。ただそれぞれの分野で自分たちが何をしたらいいのか、地域の人たちが何に取り組んだらいいのかということと、その取り組みに対して国が補助金行政ではなくて社会・経済システムを変えるために、どういう制度を導入したらいいのかを考えることが必要です。どういう制度を導入したら良いのか、今までの制度をどのように変えればいいのか、そういうことをきちんと探求して国民合意にしていくことが必要です。
 これは時間はかかりますけれど、先ほど申し上げたように今は文明の転換点みたいな所にありますから、多くの人たちがそれに気がつき始めています。再生可能エネルギーの問題だけではなくて、いろんな分野でみなさんの知恵を出していただいて、日本は日本らしい、アジアはアジアらしい発展方策があるはずだという考え方、この「内発的発展論」を唱えたのは上智大学鶴見和子先生ですが、そういう考え方に従ってすすめる。
 しかも今はこういう情報化社会でインフラも相当整備されていますから、内発的に限ることはありません。内発的なものを大切にしながら、外部から人材やノウハウを取り込んだりすることが簡単にできるようになりました。私はこれを明治大学の小田切先生と一緒に「ネオ内発的発展論」と呼んでいます。要するに内発的発展を基本にするけれども、外部からも人材やノウハウ、資本を取り込んでいけばいいという考え方で、今後の地域力創造や地域づくりをみんなでやっていきませんかということです。
 そのための方策や考え方を紹介するとともに、地域の実例を紹介したのが今回の『緑の分権改革』という本です。これを読むことでみなさんが、「緑の分権改革って難しいことかと思っていたけれど、こういうことなら我われも頑張れるよ」と思って下さればいいと思っております。

○政策理念はさらに進化中

司会:
 読ませていただくとかなり哲学的と言いますか、深い考えをお書きになっていると思います。これは、椎川さん個人のお考えなのでしょうか。それとも政策そのものの中心にしっかりあって、共有されているものなんでしょうか。

椎川:
 新しい政策理念なので、人によって理解の仕方が違うという面がありますし、違っていてもいいのだろうと思います。
 少なくとも私の場合は、初代の地域力創造審議官になって最初のテーマは「定住自立圏構想」という政策、これもファウンテンモデルですが、地域のそれぞれが中心となる核をもちながら、周辺の市町村も連携して発展していこうという政策を制度化することでした。 次に鳩山総理大臣のときに「自然との共生」ということが言われ、京都の国際日本文化研究センター安田喜憲先生と知り合いました。この方は梅原猛さんのお弟子さんで、環境考古学が専門の方です。世界の文明がどうやって山の木を切ってきたかを花粉分析で調べ世界的業績を上げた方ですが、文明論的な展開をしておられる訳です。そうした方とお話しをしてきました。
 また、さきほど言いました「内発的発展論」を小田切先生や大森先生と議論する機会も得ました。ベネッセの福武さんの考え方もそうしたものに近いものがありました。瀬戸内海の直島や手島が自給できる島にしていきたいと言われ、あるいは人間の幸福感といったことをお話しされています。これは本にも紹介させていただきました。
 そうした方々に有識者会議に入っていただいて、いろいろディスカッションしていくうちに、私の考え方も固まってきたという面があると思います。当然有識者の意見も踏まえていますけれども、新しい政策であるだけに理念の中核の所は私が最初に手を染めています。今は担当を離れていますが、同じ総務省の中で次の人が地域力創造審議官として担当されていますから、常々話もしていますし、私にとってはライフワーク的なものとしてこの「緑の分権改革」の基本理論を深めてきましたし、これからも深めていきたいと思っています。それにあたっては、いろんな人とお話をさせてもらっています。

○これから地方自治体に考えて欲しいこと

司会:
 もう一点うかがいます。「時間がかかる」というのはよく分かりますし、どうしても大きな補助金が動く事業と比べると目立たない、動きがよく見えないというところがありますが、今後どのくらいのスパンで「緑の分権改革」を考えていけばいいのでしょうか。またその時、地方自治体の方々のことがキーなるのですが、どのくらい積極的に受け止めていらっしゃるのでしょうか。

椎川:
 そこなんですよね。平成21年度の補正からやってきて、もう3年間国の予算を付けて委託事業としていろんな事例を発掘したり、実証調査をやったりしています。再生可能エネルギーの場合ですと、平成21年度の第2次補正でかなり大々的に賦存量調査事業や利用可能量調査もやりました。それ以降、3年間国費を地方に委託する形でやってきました。
 しかし、これが本当に地方に理解されているかどうかは問題です。地方自治体はこの50〜60年補助金行政に慣れていますから、委託事業は全部国費でやってもらえるから有り難いという、いわば現世御利益的に言えば100%の補助金みたいに考えて申請してきた所もないとは言えません。
 ですが、これは補助金行政ではないのですから、いつまでも同じような類型のことにお金を出し続けることはあり得ないのです。今、財務省ともいろいろ議論しているようですが、平成24年度の予算はちょっとこれまでとは趣の変わった条件、たとえば条件不利地域で「緑の分権改革」をどうやったらよいのか、再生可能エネルギーはどこでもやれますが、それ以外にどうなんだとか、あるいは横で同じような課題に取り組む自治体をつないでプラットフォームを作るとか、アドバイザーを派遣する制度を作るとか、少し違った展開、いや予定された展開になりつつあります。
 ということは、いよいよ次のテーマに移っていこうとしているのです。再生可能エネルギーだけでなく、いろんなテーマについて、本当に国民の合意に基づいて社会・経済の仕組みを変えられるかというところに来ていると思いますので、今まで以上に自治体の方にそういう意識で取り組んでもらいたいと思います。制度を変えるための提案をたくさんしてもらわないといけない時期に来ていると私は考えています。それができないと、今までの補助金行政でやってきたものと結果としてあまり変わりがないものになってしまいます。そこのところを本書でも強調しているつもりですし、ぜひ取り組まれる自治体の方々には考えていただきたいと思います。
 そして、もう一点難しいところを上げておくと、実はこれはほとんどが各省の仕事なんです。再生可能エネルギー経産省の仕事ですし、教育分野の緑の分権改革として高等教育システムのことを私は強調していますが、これは文科省の皆さんの仕事です。農林業農林水産省。ただし、農林水産省はもともとそういう考え方を持っていて、すでに六次産業化法とか木材利用促進法だとか、いろんな法律を作ってやっていますから、それを加速すればいいという所まで来ています。この分野はベクトルとしてはかなり良いところまで来ていますので、地方自治体の方からどんどん提案していくことでやっていけるんじゃないかと思いますよ。しかし、まだ手が付けられていない教育分野などは、総務省としてこれからもっと積極的に提言していく活動が必要になると思っています。

司会:
 どうもありがとうございました。


緑の分権改革: あるものを生かす地域力創造

緑の分権改革: あるものを生かす地域力創造

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